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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)2889号 決定 1952年7月07日

申請人 戸沢照 外六一名

被申請人 株式会社日立製作所

主文

被申請人が昭和二十五年五月二十七日附にて、申請人箕浦慶夫、同戸沢照、同春日稔に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。

其の余の申請人等の本件申請を却下する。

本件申請費用中、右第一項掲記の申請人三名を除く其の余の申請人に関する部分については、同申請人等の負担とする。

(無保証)

理由

第一、

疏明によれば次の事実を一応認めることができる。

一、被申請人(以下会社という)が電気機械その他の製造販売を業とする株式会社であつて、その事業所として本店を東京都に有し、東京都亀有、深川、神奈川県川崎、戸塚等全国各地に十五工場、一研究所四営業所を有すること。

会社の事業所毎に、その従業員で組織される労働組合(以下単位組合、又は本店組合、亀有組合の如くいう)があり、この単位組合が共通事項についての共同統一闘争のために日立製作所労働組合総連合(以下総連合という)を結成し、総連合と単位組合は併行的に会社と団体交渉を行う権利を有していること。

二、申請人等が別紙第一、第二目録記載の通り会社の事業所の従業員で、その単位組合の組合員であつたところ、会社は申請人等に対し昭和二十五年五月二十四日より通告を発し同月二十七日附で解雇する旨の意思表示をなしたこと。

三、これより前総連合は昭和二十五年四月五日各単位組合の要求をとりまとめ、会社に対し組合員一人平均税込一万二千円の賃上要求案を提出し、同月十二日より会社と団体交渉に入つたところ、会社は同年五月八日の第五回団体交渉の席上において賃上要求を拒否し「当社の現状と今後の経営方針」なる文書を読み上げ、これに基き五千五百五十五名の人員整理と整理基準及び退職金支給基準を発表し、同月十九日までにこの人員整理案の説明と交渉を完結したいと申入れたこと。

総連合は右問題につき同月十八日縮小中央代議員会を清水工場に開催しその決定に基き会社に対し同月二十日午後一時より団体交渉をなす旨通知したところ会社はその交渉の結果をまたず同月二十日より各事業所ごとに希望退職者の募集をはじめ、かような空気のもとで同月二十日午後一時より団体交渉が行はれたが、翌二十一日午前十時五十五分団体交渉が打切られる結果となり、一方各単位組合においてもそれぞれ会社と団体交渉を行つたが何等の結論も出ず、かくて会社は前記の通り同月二十四日より通告を発し同月二十七日附で解雇する旨の意思表示をなしたこと。

第二、

申請人等は、

一、総連合と会社及び各単位組合と会社の間には、それぞれ昭和二十二年一月二十一日労働協約が締結され六箇月毎に更新されてきたが、会社は昭和二十四年六月十四日同年七月二十日の期間満了と同時に右協約を破棄する旨通告したが、以後新協約は締結されていないので、右各協約のいわゆる自働延長規定により新協約のできるまで旧協約の効力は存続するものでありこの規定は労使双方の合意にもとづいて締結された条項であるので労働組合法第十五条第二項の規定に拘らず右各協約は存続するものといわねばならない。而して各単位組合と会社との右協約等第十五条には「企業整備その他重大な事情が起つても会社はあらゆる合理的な施策を講じて従業員を解雇しない」とあり、第十四条には「従業員の生活に大きな影響を及ぼす事項については会社は事前に組合の諒解を得て行う」とあり、また第三条においては、組合員の解雇については組合に異議申入権があり異議申入のあつたときは会社と組合は双方協議することを定めており、次に総連合と会社との右協約第二条には「重大なる会社機構及び職制の改廃は総連合と協議を経てこれを行う」と定められている。然るに、前記解雇は組合と十分協議して決定したものでないから、前記解雇の意思表示は協約に違反し無効である。

二、かりに右各協約が失効しているとしても、右各協約の前記条項はいづれも労働条件に関するもので余後効をもつことは勿論である。従つて会社は人員整理につき組合と協議しなければならないもので、かかる協議を経ていない前記解雇の意思表示は無効である。

三、さらに、従業員の身分に重大なる影響をもつ事項については、事前に会社は組合と十分協議して決定することが、会社における職場の慣行であるから、かかる協議を経ずになされた前記解雇の意思表示は右慣行に違反し無効である。

四、また、総連合と会社、各単位組合と会社の間には解雇等組合員に重大な影響を及ぼす事項については、会社は組合と協議する趣旨の協定書、覚書等が取りかわされているところ、これは労使双方の団体交渉によつて獲得されたもので、これを無視して一方的になした前記解雇の意思表示は無効である。

五、会社は前記解雇をなすに当り整理基準を発表したが、申請人等はいずれもこの基準に該当しないから前記解雇の意思表示は正当の事由にもとづかないもので無効である。

六、申請人等はいづれも活溌に組合活動をしてきたもので、会社は企業整備に便乗して申請人等の右組合活動を理由に前記解雇の意思表示をなしたものであるから、これは不当労働行為であつて無効である。

と主張し、被申請人は申請人等中別紙第二目録記載の申請人等が退職金等を受領し退職につき異議をとどめない旨の領収書を差入れ解雇を承諾している旨の疏明を提出し、またその余の申請人等に前記整理基準に該当する事実のあることの疏明を提出しているので、疏明資料を検討し順次判断する。

第三、

疏明によれば、

一、亀有工場においては、昭和二十五年八月十日総連合と会社の間において前記人員整理にもとずく紛争について協定が成立したので、同月十四日亀有組合と会社の間において、同年八月二十二日までに退職を申出たものに対しては同年五月二十七日附退職したものとして特別餞別金を支給する等の協定をなし、会社はその旨被解雇者に通告したところ、申請人吉岡源太郎は同年八月十六日同笹沼藤太郎は同月十七日同柳原繁夫は同月十八日同高橋栄一、松丸仁助、寺田重人は同月十九日その他の別紙第二目録記載の亀有工場の申請人等は同月二十二日いづれも「私儀昭和二十五年五月二十七日附を以て退職致します。然る上は今後私の退職に伴う一切の件に関し異議を申しません、依而退職支給金及び特別餞別金として右金額正に領収致しました」と附記した領収書を会社に提出し退職金、予告手当並に特別餞別金を受領したこと。

二、本店においては、同年七月十日本店組合と会社の間に前同様の協定が成立したので、会社は前記総連合との協定の後別紙第二目録記載の本店の申請人等にその旨通告したところ、同申請人等は同年八月二十二日退職願と前同様の附記ある領収書及び供託不受諾書を提出して退職金等を受領したこと。

が一応認められる。尤も申請人等の提出する疏明によれば、

一、亀有工場においては前記申請人吉岡源太郎、笹沼藤太郎、柳原繁夫、高橋栄一、松丸仁助、寺田重人は格別の異議も述べず前記領収書を提出し退職金等を受領したがその他の亀有工場の前記申請人等が八月二十二日午前九時三十分頃亀有工場に赴き石川勤労課長等に対し前記附記を抹消した領収書を提出したり、退職を諒承するのでなく生活費として受領するとか、生活に困るから金だけ貰えばよい首切りについては法廷で闘おう等退職を承認することにつき抗争したが、会社が、その定めた前記領収書を提出せねば退職金等を支払はないので已むを得ず前記領収書を提出したこと及び亀有工場の右申請人等全員がすでに同月二十一日夕刻東京地方裁判所に対し前記解雇の無効を主張して地位保全の仮処分を申請し、また退職金等を受領の後直に退職金を受領するが解雇を承認するものでなくこれに関しては争う権利を有する旨内容証明郵便を以て会社に通告したこと。

二、本店においては、昭和二十五年八月十四日及び十六日に申請人久保田同渡辺より先に会社が退職金等を供託した供託書の引渡を求め生活補給金として受領する旨附言し更に同月二十一日申請人久保田等より生活に苦しいから金が貰いたいとの要求がありまた同月二十二日別紙第二目録記載の本店の申請人等全員より前記供託書の引渡を求めその受領書中の「一切の件に異議ない」旨の削除を求める等退職を承認することにつき抗争したが結局前記退職願、領収書及び供託不受諾書を提出して退職金等を受領したこと及び右申請人等がすでに同月二十一日夕刻東京地方裁判所に対し前同様の仮処分申請をなし、また同月二十三日退職を承認するものでないことを内容証明郵便を以て会社に通告したこと。

が認められ、この事実によれば申請人吉岡源太郎、笹沼藤太郎、柳原繁夫、高橋栄一、松丸仁助、寺田重人は退職を争はざる意思にて前記領収書を提出し退職金を受領したものと認められ、前記のように解雇につき争のあつた本件においては、ここに会社との間にそれまで争のあつた前記五月二十七日附解雇につき新たに同人等と被申請人の間に雇傭契約関係の存在しないことを確定して互にこれを争はざる旨の合意が成立したものと認むるほかなきもその余の申請人等は当時退職を承認する意思或は退職する意思なきにかかわらず前記領収書退職願等を会社に提出したものと認めるほかなく、右のような事情の下においては、会社においても申請人等が退職を承認し或は退職することに強い異議を有していることを容易に察知し得べきものというべきを以て、特別の事情のない限りその真意にあらざることを察知していたものと推認すべきところ、更に疏明によれば、

一、亀有工場においては、会社は「協定成立に伴う退職支給金の支払に関する件」という会社の中央対策本部からの指示にもとづいて、即ち「別紙様式による領収書と引換えに退職金等を支給しその際領収書の内容を諒承したことを確めること、右領収書の提出を拒む者に対しては予告手当のみを支給しその他は支給しない」等の趣旨の指示にもとづいて、前記領収書の受領退職金等の支払をなし、前記八月二十二日の退職金等の受領者に対しては、提訴の有無を確め更に今後の提訴の意思を確めいづれもそのないことを認めて前記領収書を受領して退職金等を支払い、被解雇者大久保実が同年八月二十二日午後前記領収書を提出し翌二十三日退職金等の受領に来たのに対し、本店よりの連絡により同人が同月二十一日夕刻仮処分申請をなしたことを知つたので、その支払に応じなかつたこと。

二、本店においては、前記のように八月二十二日申請人等と会社の間で退職につき抗争があつたが、申請人等より総連合との協定通りにしたいとの申出あり、会社より更に退職の意思を確めまた提訴の有無並にその意思を確めたるに申請人等より領収書通りであると答えたるため会社は前記領収書等を受領し午前十時三十分頃までに退職金等を支払つたこと。

を認め得るので、会社が当時申請人等が前記のように仮処分の申請をしていることを知らなかつたこと及び退職する意思のないことを知つたならば領収書を受領して退職金等を支払うことのなかつた事情を認め得べく、他の疏明によるも、会社がひたすら領収書、退職願等退職の意思の形式的に表示されることにのみ専念しその真意を問はなかつたことを認めるに由ない。尤も右事実によれば、会社が前記領収書等と引換えにあらざれば退職金等を支払はない旨執拗に主張し、これがため生活に困窮する申請人等をして已むを得ず前記領収書等を提出するに至らしめたことを認め得るといえども、申請人等をして意思の自由を喪失せしめ或は申請人等を強迫して前記領収書等を提出せしめたとの事実を認めるに由なく他にこれを認めるべき疏明はない。従て、疏明の範囲においては、申請人等はその意思なくして前記領収書等を提出し退職の意思表示並に退職を争はざる旨の意思表示をなし会社はその真意にあらざることを知らずしてこれを受領しこれを認容して退職金等を支払つたものと認めるほかなく、この事実によれば、前記のように解雇につき争のあつた本件においては、会社が領収書等を受領し退職金等を支払つたとき会社と申請人等との間に、それまで争のあつた昭和二十五年五月二十七日附の前記解雇につき、新たに同人等と被申請人との間に雇傭契約関係の存在しないことを確定して、互にこれを争はざる旨の合意が成立したものと言はざるを得ない。然らば別紙第二目録記載の申請人等については右合意により同人等がもはや会社の従業員でないことが明であるので、同人等が現に会社の従業員たる法律関係を有することを理由とする右申請人等の本件仮処分申請は結局その疏明を欠きこれを却下すべきものと言はざるを得ない。

第四、

一、申請人等の主張するように、会社と総連合及び単位組合との間にそれぞれ労働協約が締結され、それが六箇月毎に更新されて来たが昭和二十四年六月十四日会社より同年七月二十日の期間満了とともに右協約を破棄する旨の通告のあつたこと及び右協約には申請人等の主張するような定めのあつたことは疏明によつて明である。従つて右労働協約は会社の右通告によつて更新されないことになり、いづれも昭和二十四年七月二十日期間満了により終了したものと言うべく、而して右労働協約には新協約の締結されるまで旧協約が効力を有する旨の定めがあり、会社と総連合または単位組合の間に末だ新協約の締結されていないことは疏明により明であるが、労働組合法第十五条第二項によれば、労働協約は期限到来後は当事者のいづれか一方の表示した意思に反して存続することができないので、会社は右七月二十日以後は右協約を存続せしめない意思を表示し得るものと言はざるを得ない。この規定は期限到来後の労働協約は当事者のいづれか一方の意思に反して存続せしめないこと及びそのためにはその意思が表示されることを要件としたものと解せられ、その意思の表示を期限到来後に為すべきことを要件とするものとは解せられないので、会社の前記六月十四日の通告により各労働協約は、前記協約の定めに拘らず期間満了と共にその効力を失つたものと言わざるを得ない。従つて、この点の申請人らの主張は採用することができない。

二、前記協約中の会社は総連合又は単位組合と協議するとの趣旨の定めは、組合員の解雇等につき協議する等のことを定めているので「労働条件その他労働者の待遇」に関する定めであるとは言え、直接労働条件等を定めたものでなく、労働条件等を定めるにつき総連合或は単位組合が参加することを定めたものと考えられるので、その性質は直接労働条件等を定めた場合と異り、個々の労働契約を覊束するものとは言えない。従つて前記協約中のこの定めは、個々の労働契約の内容となることなく、その効力は協約と共に終始すべきもので所謂余後効を有しないものと解せざるを得ない。また、前記協約中の会社はあらゆる合理的な施策を講じて従業員を解雇しない趣旨の定めは、会社が全く解雇権を抛棄した趣旨とは解せられず、従業員を解雇しないようにあらゆる合理的施策を講ずる努力をすることを定めたものと解せられるので、これに違反する解雇も直に無効とは言えないものと考えられる。従つて、申請人らの以上の点に関する主張は採用できない。

三、疏明によれば、小松製作所相模製作所への転属につき会社と総連合及び各単位組合との間において、また会社の各工場内の従業員の配置転換につき会社と単位組合との間において協議して来た事実はこれを認め得るが、従業員の身分に重大な影響をもつ事項につき必ず会社と組合との間に協議を為す慣行があつたと認めるには、未だ疏明に乏しく、しかも、かような慣行に従う意思があつたとしても書面によらざる協約の効力は有し得ても、畢竟所謂債務的効力を有するに止るから、かような慣行に違反した解雇を直に無効とするに由ないので、申請人等のこの点の主張は採用できない。

四、疏明によれば、前記協約の失効後、会社と総連合或は各単位組合との間において、出張旅費に関する協定、生産比例給に関する協定、小松製作所相模製作所出張或は転属に関する協定その他について協定書覚書等が作成され、また前記協約失効後協約に基く諸規則の存続が会社により確認されたことは、これを認め得るが、これらの協定書覚書においては、未だ申請人等の主張するように解雇等組合員に重大な影響を及ぼす事項について会社は組合と協議する趣旨の協定等は認められず他にかような協定をなした趣旨の協定書覚書を認めるに足る疏明がないので、申請人等のこの点の主張は採用することが出来ない。

第五、

疏明によれば、会社が前記人員整理に当り別紙第三目録記載のように整理基準を定め申請人等を同目録記載のように右基準に該当するものとして前記のように解雇の意思表示をなしたことを認め得べく、また被申請人の提出する疏明資料によれば、会社は疏明資料として提出する解雇理由書に記載されたる事実を以て申請人等の基準該当の事実なりとしこれを疏明せんとしているので、先づ右事実の存否につき疏明資料を検討する。

(い)、亀有工場。

疏明によれば、

<1>、申請人国井直之は製造部第一鋳造課合金係の鋳物員なるところ、

(一)、昭和二十四年五月より同二十五年四月までの一箇年において、その加給率は昭和二十四年十月に五〇%(係平均四九、三%)にして右係平均より高いほか毎月右平均以下にして一箇年平均四二、九%(係平均四七、七%)にして右係平均以下にして右係中最下位であり、昭和二十五年二月の昇給における綜合成績は課内の最下位より二番目であること。

(二)、昭和二十四年四月より同二十五年三月までの一箇年において、欠勤三十一回遅刻早退五十三回私用外出三回であること。

(三)、昭和二十五年四月二十七日の旧原料部ブロツクの職場大会において建設省発註の河床浚渫機械タワーエキスカベーター及びパワーシヨベルの製造につき軍事基地化反対のため製造すべきでないと主張したこと。

<2>、申請人菱健蔵は前記合金係の鋳物員なるところ、

(一)、昭和二十四年五月より同二十五年四月までの一箇年において、その加給率は昭和二十四年五月に四四、八%(係平均四四、五%)同年九月に四六%(係平均四二%)で右係平均より高いほか毎月右平均以下にして一箇年平均四五、一%(係平均四七、七%)にして右係平均以下にて右係十七名中の十五位であること。

(二)、昭和二十三年度において遅刻早退十五回で右係中最高であり昭和二十四年四月以降の一箇年において遅刻早退五十回以上で右係中最高であること。

(三)、昭和二十四年四、五月当時組合活動のための離席については、賃金が支払はれていたが、其の頃右申請人は屡々、離席し、同年四月には二十七時間同年五月には二十四時間の賃金につき職場離脱として、その支払を受けなかつたこと。

<3>、申請人坂爪敏夫は製造部第二鋳造課生型係機械込組に属する鋳物員なるところ、

(一)、昭和二十四年十月当時第二鋳造課では無作業のでる状況であるのに製罐課では残業を要する状況であつて会社は第二鋳造課員十九名を製罐課に配転せんとし、組合は同月十二日これを諒承し十一月一日協定を成立せしめたのに、申請人坂爪は「鋳物やは鋳物作業以外の仕事をするは間違いだから鋳物の職場をはなれてはいけない」と反対し更に申請人加藤政之助と共に製罐課に働きかけ受入側より反対するよう工作しそのため右配転は漸く十一月十六日実施するに至つたこと。

(二)、昭和二十四年九月より同二十五年初にわたり、当時生型鋳物工場においては「キウボラ」より出場しはじめると従来昼休み時間を前後に振り替えて注湯作業をしていたのに、昼休みは休む権利があると五、六回にわたり他の従業員に呼びかけ正午より十二時四十五分までの作業を拒否したこと。

(三)、昭和二十四年六月四日午前七時三十分頃重山某が火の未だ入つていないキウボラ(熔解爐)に飛び込まんとする事件が生じた際同所に集つた従業員に対し「公安条例反対ストに起たない組合員に重山は死を以て訴えたのだ」と煽動し第二鋳造課その他の職場の始業を三、四十分おくらせしめたこと。

<4>、申請人加藤政之助は製造部第二鋳造課計画係の技術員であるところ、

(一)、昭和二十四年五月より同二十五年四月までの一箇年の加給率は平均二八、六%で係中最下位であり、昭和二十四年六月乾燥型の時間研究を命ぜられたが数回の注意にも拘らず同年十二月までの六箇月間に何等右研究の記録を提出せず、また昭和二十五年一月鋼機工場の荒挽作業の作業分数の決定の仕事を担当したが成績不良であつたこと。

(二)、昭和二十五年四月二十七日玄関前において賃上要求に対する部課長の意向を聞くため野坂部長割石、真島両課長等の出席を求めて開かれた第一、第二鋳造課の職場大会において、タワーエキスカベーター及びパワーシヨベルは兵器であるから作るなと主張したこと。

(三)、昭和二十四年十一月前記製罐課への配転に際し申請人坂爪と共に前記のように反対し製罐課に働きかけ反対するように工作しそのため漸く十一月十六日右配転を実施するに至つたこと。

<5>、申請人小堀明久は、製造部輸送機械課工程係の事務員として統計その他の事務に従事し居り、昭和二十四年十月七日届出られた日立亀有細胞の結成届において右細胞の責任者とされているが、右細胞はすでに同年七月頃より存在し亀有組合その他と屡々交渉をなしその際右申請人が右細胞を代表して出席し意見を述べその頃より右細胞の有力なる一員であつたところ

(一)、昭和二十四年七月二十九日亀有工場の入門時に右細胞に属する者が会社の従業員に対し、同日附日本共産党葛飾区委員会名義の「金借りに区役所に行かう、職場ですぐ討議して」なるビラを配布したこと及び右細胞に属する従業員数名が職場を離れて区役所に赴き同所において重山某が検挙されるや翌三十日右細胞に属する従業員数名が職場を離れて釈放運動に参加し申請人もこれに参加したこと。

(二)、昭和二十四年十月小松製作所相模製造所への配転に際し、同月十四日日立亀有細胞名義のある「個人の意志を尊重しろ」なるビラを右細胞員が配布し、申請人が前記課の広島幸之助、吉田芳男が配転するについて相模製造所に下見に行くに同行し、同人等に対し配転に反対することを慫慂したこと。

(三)、昭和二十五年四月第二鋳造課員の動員につき前記細胞員が同月五日附日立亀有細胞名義の「二鋳の皆さん。今度の五十名動員は会社の一方的無計画極まる策謀なのだ、即ち仕事がないから賃上どころでないと斗う力を減退させ賃上げ要求をうちくだく腹なのだ……我々のうつ手は只一つ二鋳の職場より離れず仕事につくことだこのことが会社の陰謀を粉砕し仕事を確保する道だ」とのビラを配布したこと。

(四)、昭和二十五年四月十五日前記細胞員が同日附日本共産党葛飾区委員会名義の「吉田部長の昇給は二二パーセントだ。……職場ですぐ係長課長に対し昇給額の公開を要求し……係長の責任を徹底的に追求しよう」なるビラを配布したこと。

(五)、昭和二十五年三月以降前記細胞員が日立亀有細胞名義のある「朝鮮人の弾圧に労働者は反対しよう」なるビラ、同名義の四月十五日附「ドレイはいやだ」なるビラ、同名義の四月十八日附「事業所長会議の重要性……帰休、配転、動員問題は会社の賃上斗争対策の悪ラツさと平和産業の破壊をハツキリ示している……二鋳の動員、配転反対仕事よこせの斗争は戦争から我々を守り平和産業を守る斗争である」とのビラ、五月十一日附日本共産党葛飾区委員会名義の「職場に居る会社の手先と斗おう……沢田氏は仕事をやれ仕事をやることが首切りを防ぐことだといつている。諸君が仕事をやつている間に職制はどんどん切りくずしをやつてくる……鉄道修理などに使うレツキングクレーンは台湾に送られ外国人の手で中国人民を殺す戦争道具の一つに使はれるのでないか、諸君たちはまた戦争の道具に使はれ親や子や兄弟たちが殺されるのだ……沢田氏は職場を廻つてレツキングをおくらせると占領政策違反になるといつて斗争に水をかけている彼等は明かに会社側の手先だ、労働者の敵だ悪質民同だ……職場にいる会社の手先とテツテイ的に斗おう、軍需品の製造を拒否しろ……」なるビラを配布したこと。

<6>、申請人岩瀬勝彦は製造部鉱山機械課の技術員であつたが、本件解雇当時は総連合の書記長として組合事務に専従していたところ、同人は昭和二十五年四月七日以来病臥し同年五月上旬には、同人の病状が肺浸潤及び結核性腹膜炎によるもので相当長期間の療養を要し早急に回復して出社できる見込のない状態にあつたこと。

<7>、申請人福島勝義は製造部鉱山機械課組立係の組立員なるところ、

(一)、昭和二十四年五月より同二十五年四月までの一箇年において、その加給率は同年四月に四六、五%(係平均四五、九%)にして係平均より高いほか毎月係平均以下であり一箇年平均四四、七%(係平均四七、八%)にして係平均以下で右係中最低であること。

(二)、昭和二十四年十月小松製作所相模製造所への配転に際し、右課の課長が課員石井、藤井、新藤の三名を指名し、亀有組合との協定に従い十月中旬右石井に対し個人折衝をはじめたところ、申請人はこれを不当として強いて右石井を連れ去り右折衝を妨げたこと。

(三)、同年十一月中旬右課の綱島、多田、長島の三名に対し右相模製造所への配転の指名があつた際、当時すでに亀有組合と会社の間において右配転につき協定が成立していたに拘らず、申請人は申請人新藤同春日と共に右綱島等に対し配転を拒否すべきことを慫慂したこと。

<8>、申請人新藤喜市は前記組立係の組立員なるところ、

(一)、昭和二十四年五月より同二十五年四月までの一箇年において、その加給率は昭和二十四年七月に三四、四%(係平均三四、四%)昭和二十五年一月に四七、四%(係平均四五、八%)同年四月に四六、九%(係平均四五、九%)であるほか毎月係平均以下にして一箇年平均四五、五%(係平均四七、八%)で係平均より低く係中の最下位より五番目であること。

(二)、昭和二十四年十一月中旬申請人福島等と共に、前記のように綱島等に対し配転拒否を慫慂し、同年十月二十日頃配転の指名を受け既に旅費の支給を受けていた石井清勝に対し配転拒否を慫慂したこと。

(三)、昭和二十四年十月中旬前記相模製造所へ出張を命ぜられたのにこれを拒否したこと。

(四)、前記キウボラ事件の際現場に赴き職場を抛棄したこと。

<9>、申請人荒木真一は製造部製罐課工程係の事務員で図面整理の事務等を担当していたところ、

(一)、昭和二十四年五月より同二十五年四月までの一箇年において、その加給率は平均二七、四%にて係中最下位より二番目であること。

(二)、徒歩約十分の近距離にある独身寮に居住するに拘らず昭和二十四年四月よりの一箇年において欠勤三回遅刻早退五十四回であること。

<10>、申請人箕浦慶夫は、製造部工程係の事務員として生産関係の資料蒐集作成の事務に従事していたところ、

(一)、昭和二十五年四月十五日会社の入門時に従業員に対し前記「吉田部長の昇給は二二パーセントだ」なるビラを「皆さん吉田部長の昇給です」と連呼して配布したこと。

(二)、前記亀有細胞員は同年五月十一日前記「職場に居る会社の手先と斗う」とのビラを配布したが同日申請人は輸送機械課の職場において右ビラと同様の煽動をなし、ために同職場では沢田組長が売国奴か職制の督戦隊であるかについて討議する結果となり一時作業を抛棄するに至つたこと。

(三)、昭和二十五年五月十三日当時第一鋳造課木型係と会計課に対しては午前九時より正午までスト指令があつてその従業員は工場幹部室前の廊下に坐り柏子木等を乱打していたが、申請人は、その所属する工程係に対してはスト指令なきに拘らず、他二、三名と共に秘書室に押入り当時会議中の工場長室の戸を強いて開き再三の要求にも退去せず会議の続行を不能ならしめたこと。

(四)、昭和二十五年五月十六日以後数日始業時より朝礼時まで細胞員十数名を率いて柏子木、鉄片等を叩き或は高唱して各職場を練り歩き他の従業員に合流するよう呼びかけたこと。

<11>、申請人石川進は設計部輸送機械設計課建設機械係の技術員として設計製図を担当していたが、

(一)、昭和二十三年八月シヨベル部品の設計製図を担当したが通常五箇月に完成すべきを八箇月を経ても完成せず一部他の者に担当せしめることとなりそのため製品の納期を遅延せしめたこと、また昭和二十五年三月受註決定仕様書をみることを怠りウインチの電動機の回転回数を誤り設計不良を来し現場作業に混乱を起したこと。

(二)、昭和二十四年四月よりの一箇年において、欠勤九回遅刻早退二十一回にて係十名中の最下位から二番目であること。

(三)、昭和二十五年五月十六日以降数日間始業時より朝礼終了までの間申請人箕浦等と共に各職場を柏子木、鉄片等を叩き或は高唱しながら練り歩き他の従業員に合流するよう呼びかけたこと。

<12>、申請人長嶋和男は前記建設機械係の技術員なるところ、

(一)、昭和二十四年五月よりの一箇年において、その加給率は平均二八、六%にて課平均以下であること。

(二)、昭和二十四年八月よりタワーエキスカベーターの捲上機械部分等の製図をはじめたがおそくも十一月中旬に完成すべきを十二月中旬に漸く完了しこれがため納期を一箇月遅延せしめる等、技能が比較的低位にあつたこと。

(三)、昭和二十四年五月よりの一箇年において欠勤一回遅刻早退三十八回で係中最下位であつたこと。

(四)、昭和二十五年五月十六日以降数日始業時より朝礼終了までの間申請人箕浦等と共に各職場を柏子木、鉄片等を叩き或は高唱して練り歩き他の従業員に合流するよう呼びかけたこと。

<13>、申請人広瀬武夫は技術部設備課電気係の電気員なるところ、

(一)、昭和二十四年八月会社が通産省より求められた資料作成のため、単位製品当りの電気消費量の計算等を百瀬技術員より指示命ぜられたが、その指示された方法に反対してこれに従はず自己の擅なる方法により計算したるも昭和二十五年一月まで遂に計算の結果を提出せず会社をして前記資料の提出を不能ならしめたこと。

(二)、昭和二十四年八月頃モーター一台を修理するに要する作業分数を工程別に作業分数台帳より集計し山積表を作成することを命ぜられ約一週間で出来るのに二週間を要しながら拙劣で利用に供し得なかつたこと。

(三)、昭和二十五年四月第二鋳造課の動員に際し、日立亀有細胞においては「動員は賃上要求をくだく腹だ二鋳の職場よりはなれず仕事につくことが会社の陰謀を粉砕する道だ」とする趣旨の同月五日附細胞名義のビラを配布したが、その頃申請人は右第二鋳造課の職場に赴き右同様の主張をなし動員反対を煽動したこと。

(四)、昭和二十三年十月より同二十五年一月まで肺結核結核性網膜炎で治療を受け、昭和二十三年二月より左眼球癆兼右結核性葡萄膜炎で約四箇月、昭和二十四年十一月より肺浸潤で約一箇月欠勤し病弱であること。

<14>、申請人戸沢照は、昭和二十三年七月より同二十四年六月までは技術部設備課の治工具係長であつたが、その後は、右設備課所属の技術員となり組合専従者として組合事務に専従していたところ、

(一)、昭和二十四年三月当時亀有組合が産別大金属組合を脱退するか否かにつき職場において投票を行つた際設備課においては脱退多数を占めたところ、申請人は設備課員が組合運動に弱いのは個人の収得が多すぎるからだ作業分数を切下げるべきであると発言し従業員に不安動揺を与えたこと。

(二)、昭和二十三年八月十五日ユニース颱風により工場が浸水し、当日は日曜日であつたが設備課長は工場附近の居住者の設備課員十名に出勤を命じ申請人にも至急駆けつけるよう連絡があつたのに拘らず、申請人は所用ありとて応ぜずそのため右課長が設備保全のための指揮をとるに支障を来さしめたこと。

<15>、申請人渡辺きみ子は経理部原価課原料原価係の事務員として営繕運輸設備利材等補助経営部門の計算事務を担当していたところ、

(一)、同係においては男子一名女子三名にて事務を担当していたが、他の女子事務員は一箇月一万三千枚或は五千枚の伝票を処理するに、申請人は一箇月二千枚乃至二千五百枚を処理するに止り、昇給も三箇年間平均以下であること。

(二)、昭和二十五年四月頃偶々給与計算担当者の話合より昇給率を聞知したが、取扱課である前記原価課においてはかような事は秘密にすべきを課員に対し特に注意ありたるに拘らず、申請人はこれを他に漏し、前記吉田部長の昇給云々のビラの作成配布の端緒となりたること。

(三)、昭和二十五年五月十一日頃前記亀有細胞員が前記「職場に居る会社の手先と斗おう」とのビラを配布したが申請人は始業前より朝礼時頃まで輸送機械課の職場に赴き右ビラと同様の煽動をなしたこと。

<16>、申請人春日稔は総務部庶務課営繕係の木工作業に従事するものなるところ、

(一)、昭和二十四年十一月中旬前記小松製作所相模製造所への配転に際し申請人福島、同新藤と共に前記のように綱島等に対し配転を拒否すべきことを慫慂したこと。

(二)、昭和二十五年三月十四日鉱山機械課員野島某が車輛工場の塀修理に動員され作業中コールターにて顔面かぶれを生じ左眼をいためたのを以て、強制動員によるものであると会社を中傷誹謗したこと。

(三)、昭和二十五年五月初旬申請人が職場においてレツキングクレーンは兵器であるから、出荷に反対すべきであると述べたこと。

はこれを認め得るが、申請人等が屡々職場を離れたことについては前記基準に該当するや否やを判断するに足る具体的事情の疏明に乏しく、申請人小堀が昭和二十五年三月厚生課加藤安次の事務分掌の変更に際しこれを妨害したこと、申請人福島がキウボラ事件の際職場抛棄を煽動し、また昭和二十四年七月二十九日職場抛棄を煽動したこと、申請人戸沢が作業時間中「アカハタ」を売り歩き朝礼時に共産党の宣伝をなし作業時間中ストーブにあたつていた従業員に注意せずかへつて共産党の宣伝をしたこと、申請人渡辺が作業時間中党活動をしたことその他前記解雇理由書記載の事実はこれを認めるに足る疏明に乏しい。尤も、申請人菱が昭和二十三年八月第二鋳造課鋳鉄工場への配転、同二十四年五月木型工場への配転同年十月相模製造所への配転に際し反対したことは認め得るが、疏明によれば当時右申請人が亀有組合の執行委員であり同組合も右配転には関心を有し後に会社と諒解或は協定を遂げた事情が認められるので、右申請人の反対の日時事情につき更に疏明のない限り右反対を組合活動と異るものと認めるに由なく、申請人坂爪が昭和二十四年十一月一時間の早出に反対し遂に実施されなかつたことは認め得るが、疏明によれば当時右申請人は右組合の執行委員であり職場における交渉がある程度認められていた事情にあつて早出に対する職場の意向を伝えて折衡したことが窺え被申請人が従来かかる事情について組合と正式な団体交渉を行なつていたことが認められない限り右反対を組合活動と異るものとなす疏明に乏しく、申請人坂爪、加藤が前記のように昭和二十四年十月製罐課への配転に反対活動をしたことは認め得るが、これが日立亀有細胞の名において為され申請人小堀の責に帰せらるべき事情についてはその疏明を欠くるものと言うべく、申請人箕浦が「戦争の道具に使用するようなものを造るようになつては戦時中の亀有工場になるだろう」と従業員に話しかけたことまた「亀有工場においては発送高の裏付がなくとも銀行より金が借りられる」と言つたことは認め得るがこれを以て煽動或は生産意慾の阻害と認めるに足る事情については疏明を欠くるものと言うべく、申請人広瀬、戸沢が病中の栗原課長を訪れ昇給につき詰問したことは認め得るが、これが生産意慾を阻害しようとする細胞活動の一環としてなされた事情については疏明に乏しいとなさざるを得ない。

(ろ)、深川工場

疏明によれば、申請人鈴木利一は製造課第二鋳造係の調査員なるところ、

(一)、昭和二十四年五月以降鋳物製品の検査合格の個数調べと焼鈍装入の製品別個数調べを担当したが、鋳物製品の合格数が不正確にて賃金計算に支障をきたし、また、焼鈍装入の製品別個数調べも不正確で同人の報告にもとづいて段取りした仕上作業に支障を来したこと。

(二)、鋳造製品の合格及び不合格品の整理に当り取扱い粗略にして昭和二十四年五月頃多賀工場の特急受註品を破損せしめたこと。

(三)、昭和二十五年三月より白銑整理作業を担当したが前日の製品整理のため調砂員全員に対し一時間の早出が命ぜられたに拘らず同年五月二十四日までの間七回にわたりこれに従はなかつたこと。

(四)、昇給は昭和二十三年八月三、九%にして平均五%より低く昭和二十五年二月二%にして平均六%より低いこと。

(五)、寮生として徒歩十五分の近距離に居住するに拘らず昭和二十四年四月以降の一箇年において遅刻十七回欠勤八回にして工場平均遅刻六、二回、欠勤三、二回に比し甚しく不良であつたこと。

(六)、昭和二十四年十月小松製作所相模製造所へ深川工場より三十名の従業員を転属せしめるに際し、同年十月二十八日会社と総連合との間に協定が成立し深川組合においては同年十一月三十日これを諒承し同年十二月十四日その旨会社に回答したに拘らず、昭和二十五年二月二十三日深川細胞はこれに反対することを決しその一員である申請人はその頃調砂職場において「小松製作所相模作業所は軍需資材を製作するところだから行つて働くことは戦争に協力することになるから絶対反対する」「あちらさんに奴隸的に使われるな」等と宣伝して反対したこと。

は一応これを認めるがその他の事実は認めるに足る疏明に乏しい。尤も疏明によれば、申請人が昭和二十三年十月二十二日前日製造課鋳造組長杉田が鋳造員笠原の中央団体交渉傍聴の申出に関し同人を殴打した件につき「二十一日事件は職制による組合運動の圧迫であるから断呼斗え」とのビラを貼布したこと及びこれがため鋳造職場で青共員と鋳造員との間に混乱を生じ一時鋳造作業が停止されるに至つたことは認め得るが、右事件に関し深川組合がこれを諒承し問題としないことを決したことの疏明のない限り、一応正当な組合活動とみるべきであるところ、右組合が諒承しているに拘らずこれに反し秩序を乱したとの疏明に乏しい。

第六、

よつて、前記認定の事実につき、基準該当の当否並びに不当行為の成否について案ずるに、

(い)、亀有工場

<1>、申請人国井直之の前記事実につき案ずるに、加給率につきそれが指定分数のつけ方に左右され係長の一存で決せられ作業成績を示すものでない趣旨の疏明があり、また出勤率につき病弱及び叔父の死亡による旨の疏明があるが、被申請人の提出する疏明と対照するときは、疏明の範囲においては指定作業分数は合理的な基礎に基いて算出され従つて加給率が技能の良いものに高く技能の悪いものに低い事情を一応認めるほかなく、また出勤率の不良を宥恕すべき特段の事情が認められないので前記(一)、(二)の事実を以て「業務能率低く成績の上らないもの」との基準(1)及び「欠勤遅参早退の多いもの」との基準(6)に該当せしめるは、これを不当とするに由ない。また前記(三)の事実は多数従業員の参集する職場大会において、現に製作中の機械を製造するなど主張する以上この限りにおいては、製造の拒否を煽動しているものと一応認めざるを得ないが、疏明によれば右職場大会は、四月五日以降開始された賃上要求の団体交渉がその当時既に停滞しこれに焦慮した従業員が部課長の出席を求めてその意向を知らんために開かれたもので、前記主張は部課長に対する応答の一端として反溌的気持から、機械的に呼ばれたるに止るものと認められるので、他に煽動の意図或は結果の認むべきもののない限りこれをとらえて、「他人の生産意欲を阻害するもの」との基準(10)に該当せしめるはこれを妥当とは言えない。

<2>、申請人菱健蔵の前記事実につき案ずるに、加給率につき、これが生活費を基準にして係長の一存で操作され組合役員単身者につき不当に切り下げられているとの疏明があり、出勤率につき会社が数回誤つて遅刻と判定したことのあること、また申請人が病弱を押して出勤したために遅刻したことのあることの疏明があるが、被申請人の提出する疏明と対照するときは、疏明の範囲では、なお加給率は一応作業成績を示し、出勤率が作業に対する勤怠を示すことを否定し得ないので、前記(一)(二)の事実を以て前記基準(1)に該当せしめるは、これを不当とするに由ない。前記(三)の事実については、前記のような事情のもとにおいては、組合活動であるとの疏明のない限り一応組合活動によらざる離席とみるほかなく、これを「職場の秩序又は風紀を紊すもの」との基準(7)に該当せしめるは不当とするに由ない。

<3>、申請人坂爪敏夫の前記事実につき案ずるに、前記(一)の事実は、申請人が執行委員である亀有組合と会社との間で協定を為し右組合が配転を諒承したに拘らず、協定に反し配転反対の工作をなお繰返すは他に特段の事情の認められない限り正当な組合活動とはいえず会社業務の運営を阻害する意図の下になすものとされ非協力なるものとされても已むを得ないところであると言うほかないから右事実を以て「業務に対し非協力のもの」との基準(4)に該当せしむるもこれを不当とするに由ない。前記(二)の事実は、作業の関係で従来長く昼休み時間を互に振替へて作業していたのに、団体交渉等によつてこれを変更する手段に出ずいきなり作業を拒否し他の従業員にもこれを慫慂するは、特段の事情のない限り、生産を阻害するものと認めるほかなく、これをもつて前記基準(10)に該当せしめるはこれを不当となすに由なく、また前記(三)の事実は、公安条例反対のストライキに起つべきことを主張する限りにおいてはこれが直に他人の生産意欲を阻害するものとはいえないが、疏明によれば当時既に職場大会において、かかるストライキの実行が否決されていたことが認められ、また前記の如くかような煽動により始業の開始がおくれる結果を来した場合には、申請人の右のような所為は、生産を阻害するものと言うほかないから、これが前記基準(10)に該当しないとは言えない。

<4>、申請人加藤政之助の前記事実につき案ずるに、加給率につき同人が屡々組合活動の圧迫であると抗議したとの疏明があるが、被申請人の提出する疏明と対照するときは疏明の範囲では、申請人の如き間接員については加給率は二〇%より四〇%の間を七段階に分ち係長組長の査定によるものではあるが、同課のその余の間接員たる執行委員の加給率等に照せばこれが通常作業成績を示すものであることを一応認めるほかなく、また同人の前記作業不履行が特に職場代表委員としての正当な職務の遂行に起因するものとは認められないのでこれを左右するほどの疏明のない本件においては、前記(一)の加給率は一応作業成績を示すものとなすほかなきを以て、前記(一)の事実を以て前記基準(1)に該当するとなすはこれを不当とするに由ない。また前記(二)の事実を以て前記基準(10)に該当するものとなすのは申請人国井について説示したとおり妥当でないが前記(三)の事実をもつて前記基準(4)に該当せしめるは、前記説示に照せば、これを不当とするに由ない。

<5>、申請人小堀明久の前記事実につき案ずるに、前記(一)の事実は、従業員に対し主として区役所に行くことを呼びかけたもので、会社の業務につきこれを阻害することを目的としたものとは認め難く尤も職場ですぐ討議することを呼びかけていることは会社の業務に考慮を払はないものとは言えるが、これは附随的のものと認めるほかないので、右事実を以て基準(4)の非協力となすは当らないものと言うべく、申請人が釈放運動のため職場を離れたことは会社業務に非協力と言い得るが、疏明により認められる当時の事情に照せば、この一事を以て前記基準(4)に該当せしめるは酷に失し妥当を欠くものと考えざるを得ない。前記(二)の事実は、亀有組合と会社との間で昭和二十四年十月十三日協定し、右組合が相模製造所への長期出張を諒承したが、右組合は転出は本人の意思によることを要求し、会社は転出は本人の納得を得るよう努力するが客観的にみても真に已むを得ない事由のあるものと認められる場合のほか本人の意思に副わないこともあり得ると回答した事情が疏明されているので、右協定成立後各人の特殊事情について組合が会社と交渉しうることは言うまでもないが、申請人が積極的に個人に働きかけて転出に反対せしめることは右組合の意向に副わないものと認めるほかなきを以て、疏明により明らかなように申請人が当時右組合の執行委員でありながら配転に反対することを慫慂したことは業務に非協力であるとされても已むを得ないところと言うべく、この事実を以て基準(4)に該当せしめることはこれを不当とするに由ないが、日立亀有細胞の前記ビラは、疏明によれば、会社が個人の意思を尊重しないことに反対しているのであつて直接配転に反対しているものでないことが明であるので、この配布の責任を問うて、業務に非協力となすは当を得ないものと言うほかない。前記(三)の事実は、疏明によれば亀有組合が動員に積極的に反対したものとは認め難く、また右組合と会社との間に動員について諒解の成立した事実を認めるに足る疏明もないので、動員に反対すること自体は正当な組合活動と認めるべき余地のあることは勿論であるが、前記ビラの配布による活動は細胞の名による活動であつて動員反対を煽動し職安デモに結びつけ仕事よこせデモを画策したものと認めるほかなきを以て右細胞の責任者としての申請人は特段の事情のない限りその責任を負うべきものと言はざるを得ないので、右事実により申請人を基準(4)に該当するものとしたことはこれを不当となすに由ないものと言はざるを得ない。前記(四)の事実は、日本共産党葛飾区委員会の名によつて従業員に対し係長等の責任を追及することを煽動しているものであり、前記(五)の事実中四月十八日附「事業所長会議の重要性」なるビラの配布は日立亀有細胞の名によつて配転動員の反対を煽動しているものであり、五月十一日附「職場に居る会社の手先と斗う」なるビラの配布は前記区委員会の名によつて職場にいる会社の手先と斗うこと及びレツキングクレーンの製造を拒否することを煽動しているものであつて、いづれも労働組合法第七条にいう正当な組合活動の範囲に属するものとは認められないので、他に特段の事情の疏明のない本件においては、右細胞の責任者としての申請人はその責任を負うべきであり右事実により申請人を前記基準(10)に該当するものとしたことはこれを不当とするに由ない。

<6>、申請人岩瀬勝彦の前記事実につき案ずるに、疏明によれば、同人は昭和十二年入社し同十八年より工場に勤務し鉄道機器課組立係長となつたこともあつて戦前戦後を通じて勤務に励み、今次発病の原因の一端が、会社における労働にあることが窺われるのであるから、通常の事態であるならば、会社として、同人が安んじて療養し得るよう、少くとも所定の方途を講ずべきであるが、会社が行なつた本件の人員整理は、同社の経済的不況を打開するという当面の目的のために、経営効率に寄与する度の低いと認められるものを順次整理の対象としたもので、そのため、本来大過なく勤務していた健康者であつても、他の者との比較考量の結果解雇され、特に結核性疾患者は、その病状が軽度で作業に支障のない特殊な例外を除きすべてその対象となつたことが認められ、また組合専従者といえども会社の従業員たる地位を有することにおいては、他の一般従業員と異る所がないのであるから、前記のように、申請人が昭和二十五年四月七日以来病臥し、会社が同人に対する解雇を決定した前である同年五月上旬に、既に、右の疾患が肺浸潤及び結核性腹膜炎によるもので、長期間の療養を必要とすることが、推測できる状態にあつたことからして、会社がこれを以て「身体虚弱なるもの」との基準(13)に該当せしめることは、その道徳的評価はともかくとして、法律上不当とするわけにはいかない。

<7>、申請人福島勝義の前記事実につき案ずるに、疏明によれば、前記組立係においては四十数名の組立員が三乃至五のグループに分れて共同請負をなしその加給率は係長組長において査定するものであり、申請人は若年で組立員の多くは年令においても経験においても申請人より高いことが認められるが、加給率は作業成績を考慮して定められることが一応認められるので、特別の事情の疏明のない限り前記(一)の加給率は申請人の作業成績を示すものと認めるほかなきを以て、前記(一)の事実を以て基準(1)に該当せしめることはこれを不当となすに由ない。また、たとえ職場委員としての行動であつても、組合と会社の間の協定の趣旨に反するものと認められる限り正当な組合活動とは言えないのみならず疏明によれば申請人が細胞の方針に従つて一般従業員に対し転属反対を煽動したことが窺われるから前記(二)及び(三)の事実を以て基準(4)に該当せしめることは、前記説示に照しこれを不当とするに由ないものと言はねばならない。

<8>、申請人新藤喜市の前記事実につき案ずるに組立係に於いては、組を単位とする共同請負作業が行われ従つて、出来高の分配に際しては、各人の作業時間、基本給残業時間等が考慮されたことは推察できるが本件の疏明の範囲においては、右分配の際、係長或は組長が特に加給率に各人の作業成績を反映せしめ一応加給率によつて、各人の作業能力を比較しうることが認められるのであるから前記(一)の事実を以て、基準(1)に該当せしめるも已むを得ないところと言うほかなく、前記(二)の事実を以て基準(4)に該当せしむるも、前記説示に照し已むを得ないところと言はねばならない。前記(三)の事実につきみるに、相模製造所への出張命令に従はなかつたことを以て「上司の命令に反抗的なもの」との基準(9)に該当するとなすは当らないとは言えないが、前記のように右出張につきては本人の意思によることとの亀有組合の要求があり、会社よりも本人の納得を得るよう努力するも客観的にみて已むを得ざる事由ありと認められる場合のほか本人の意思に添はないこともあり得るとの回答のあつた事情と、疏明により認められる会社の遠藤課長が申請人の父親に再三申請人の出張方の承諾を求めたのに遂にその快諾を得られなかつた事情に照せば、これを前記基準に該当せしめるは妥当を欠くと言うほかなく、また前記(四)の事実は、職場抛棄ではあるが、危急の際現場にかけつけるは特別の事情なき限りこれを責めるは酷と言うべく、この一事を以て「職場の秩序又は風紀を紊すもの」との基準(7)に該当せしめるは妥当を欠くものと言はざるを得ない。

<9>、申請人荒木真一の前記事実につき案ずるに、疏明によれば同人が昭和二十一年六月三日公傷しまた製罐課の衛生委員であつたことは認められるが、被申請人の提出する疏明によれば、右事情或いは正当な組合活動のため加給率が低く出勤率の不良になることの事情は認められないばかりでなく、間接員についても、通常加給率が勤務成績を反映することが窺われるので、前記(一)及び(二)の事実を以て基準(1)及び(6)に該当せしめるは、不当と云い得ない。

<10>、申請人石川進の前記事実につき案ずるに、前記(一)の事実を基準(1)に前記(二)の事実を基準(6)に該当せしめるは已むを得ないところと言うほかなく、前記(三)の事実は、示威行為とみるべく、疏明によれば、当時人員整理案が発表され亀有組合と会社との間で紛議が生じ一部においては右組合の指令に基き罷業が行はれ、その他の部門においてもかような空気を反映して正常な業務運営の状況と異る事情にあつたことが認められ、これらの事情に照せば、右示威行為のため従業員の生産意欲その他に影響を与えても正当な争議行為の範囲を逸脱するものとは、にわかに断じ難く、これを以て基準(4)に該当せしめることは妥当を欠くものと言わざるを得ない。

<11>、申請人長嶋和男の前記事実につき案ずるに、前記(一)の事実は加給率が課平均より以下であることを示すに止り、これを以て直に解雇基準に該当するとなすに由ないこと勿論であるが間接員についても加給率が通常その業務成績を反映することは前記のとおりであり、前記(二)の事実と併せ考えるときは、右(一)(二)の事実を以て基準(1)に該当するとなすも特別の事情の疏明のない限りこれを不当とするに由ない。前記(三)の事実を基準(6)に該当せしめるは已むを得ないところと言うべく前記(四)の事実を基準(4)に該当せしめるは前記の通り不当となすほかない。

<12>、申請人広瀬武夫の前記事実につき案ずるに、前記(一)の事実は基準(9)に該当するとなすもこれを不当とするに由なく前記(二)の事実は山積表作成の能力を示すものと雖、申請人が電気員であることに照せばこの一事を以て基準(1)に該当せしめるは不当というほかない。前記(三)の事実は、組合としてかかる動員を了承していることが認められる限り日立亀有細胞と呼応してなした細胞活動と認めるほかなきを以て前記説示に照せばこれを基準(4)に該当せしめるも已むを得ないところと言うべく、前記(四)の事実は、疏明により認められる申請人が昭和二十四年八月以降病弱のため軽作業につかしめられた事実に照せば基準(13)に該当するとなすもこれを不当とするに由ない。

<13>、申請人渡辺きみ子の前記事実につき案ずるに前記(一)の事実は基準(1)に前記(二)の事実は基準(4)に該当するとなすもこれを不当とするに由なく前記(三)の事実は、前記のように当時既に大量解雇が発表され、連日部分ストが行われていたような事情が認められ、しかもかかる行動も当時の組合の意に反していたものとは認められないから、これを基準(4)に該当せしめ得ないものと言はねばならない。

而して、以上のように右申請人等を基準に該当するとなすもこれを不当とするに由なきところ、疏明によれば、前記人員整理が企業整備の必要上一応已むを得ないものと認められ、これを不当とする特段の疏明のない本件においては、右のように基準に該当するとした右申請人等の前記事実は、他に特段の事情がなくとも一応解雇の理由として肯認されこれを理由とする解雇を不当とするに由なきものと言うべきを以て、解雇基準に該当しないとの申請人等の主張はこれを採用する限りでなく、また前記解雇を不当労働行為と認定するに資するところのないものと言はざるを得ない。疏明によれば、右申請人等がいづれも亀有組合の役員等として活溌に組合活動をしてきたことを認め得るが、会社が前記事情にあるに拘らず申請人等のこの活動を嫌忌しこれを主たる動機として前記解雇をなしたことを認めに足る疏明に乏しいので申請人等の不当労働行為の主張も採用することが出来ない。

<14>、申請人箕浦慶夫の前記事実につき案ずるに、前記(一)及び(二)の事実中、申請人が日本共産党葛飾区委員会名義のビラを配布した点は、これらのものと呼応してなした活動と認めるほかなく、かように、従業員をして係長の責任を追及せしめんことを鼓吹する活動をもつて、申請人を前記基準(4)に該当するとなすはこれを不当とするに由ないが、前記ビラ配布についで為された申請人の行動については、疏明によれば、当時組合の賃上要求の交渉が停滞し、今次人員整理案が発表されて従業員に多大の衝動を与え組合も強硬な斗争態勢を現わしていたことが明であるので、この時にあたり従業員が会社との斗争にその分をつくすはこれを不当とするに由なく、これらの事情に照せば、申請人の前記ビラ配布後の行動を以て、たとえ申請人が前記細胞の一員であるとしても更に疏明のない限り一概に細胞活動としてなされたものと断ずるに適しなく、然らざる限り、前記ビラ配布後の申請人の行動は、右事情に照せば、これを基準(4)に該当せしめるは妥当を欠くものと言はざるを得ない。前記(三)の事実は、会社の業務を直接阻害する暴力的行動というほかなく、疏明によれば当時人員整理案が発表され亀有組合と会社との間で紛議が生じ一部においては右組合の指令に基き罷業が行はれ、その他の部門においてもかような空気を反映して正常な業務運営の状態と異る事情にあり、申請人が右部分罷業を助成するため前記行為をなしたことを認め得るとはいえ、なお右阻害行為を以て正当な争議行為と認めるに由なく、従つて、これを以て申請人を基準(4)に該当せしめることは不当とは言えないが、右事情を考慮すべきものと言わざるを得ない。前記(四)の事実は、示威行為とみるべく、右のような当時の事情に照せば、これがため従業員の生産意欲その他に影響を与えても、正当な争議行為の範囲を逸脱するものとは、にわかに断じ難く、これを以て基準(4)に該当せしめることは不当と断ずるほかない。

而して、申請人が昭和二十二年九月以降組合において活溌な組合活動をなして来たことは疏明により明であり、また申請人が業務成績或は出勤率等も良好であつたことが窺われるのみならず、疏明の範囲においては、会社が申請人を排除せんとする主たる理由が、細胞ビラの配布等の細胞活動の責任を問わんとするより、むしろ会社が細胞活動と認める職場における具体的活動にあることが窺われ、申請人のこれらの活動が前記認定の通り昭和二十五年四月以降の組合が賃上の団体交渉或は争議行為を開始するに至つた後のことに属していること及び右活動が本件疏明の範囲においては、前記のように必ずしも細胞活動と断じ得ない事情を綜合して考えれば、会社の申請人に対する前記解雇の意思表示は申請人の組合活動を主たる根拠とする差別待遇の意思にもとずくものと言わざるを得ず、従つて右意思表示は労働組合法第七条第一号に違反する無効のものと断ぜざるを得ない。

<15>、申請人戸沢照の前記事実について案ずるに、前記(一)の事実は従業員に動揺を与えるような言動のあつた点において基準(4)に該当するとなすもこれを不当とは言えないが、疏明によれば右発言は不用意の間に漏らされたもので特に従業員に動揺を与えることを意図したものでなかつたことが明であり、また前記(二)の事実は、緊急の場合における出勤の命令に従わなかつたものにして基準(9)に該当すると言うほかないが疏明によれば、申請人は設備課に属するが治工具係長で直接工場施設の保全に責任を有するものでなく当時水害も漸次減退の状況にあつたことが窺えるので、前記(一)(二)の事実を以て基準に当るとして解雇することは酷に失し、前記のように認めた企業整備の必要上已むを得ない人員整理の事情の下においても、特段の事情の疏明のない限り解雇の理由薄弱と言うほかない。

而して、申請人が昭和二十四年六月頃より亀有組合の専従者として活溌に組合活動をして来たことは疏明により明であるので、この事実と前記事情を併せ考えるときは、前記解雇の主たる理由は前記事実のほかにあり、これを申請人の右組合活動に求めるほかなきものと言わざるを得ない。従つて、疏明の範囲においては、申請人に対する前記解雇の意思表示は労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為と一応認めざるを得ない。

<16>、申請人春日稔の前記事実につき案ずるに、前記(一)の事実は前記の通り基準(4)に該当するものとなすほかなく、前記(二)の事実は強制動員なる語を使用し誇大に宣伝せんとする意図が窺われ、動員反対を煽動するものでこれが基準(4)に該当しないとは言えないが、新に発生した事情を訴えて動員に対する従来の態度を是正せんとする試みは、それが動員反対を目的とするものであつても、組合活動を逸脱するものとは言えないので右事実を以て基準(4)に該当せしめるは妥当を欠くものと言わざるを得ない。前記(三)の事実は、疏明の範囲においては、レツキングクレーンの出荷に対する見解を述べたるに止り出荷反対の煽動をなしたものとは認められないので、これを基準(4)に該当せしめるは妥当を欠くものと言わざるを得ない。然らば申請人に対する解雇の理由は一応前記(一)の事実に尽きるとみるべきところ、前記のように認めた人員整理の已むを得ない事情の下においても、特段の事情の疏明のない限り、この事実のみを以て解雇の理由として肯認するに足らないものと考えざるを得ない。而して疏明によれば申請人は亀有組合の宣伝部員として相当執拗に宣伝活動を続け、これにつき一般に好感を以て迎えられていなかつたことが窺われるのでこの事実と前記事情とを併せ考えるときは、申請人に対する前記解雇の意思表示は主として一応組合活動とみられる右宣伝活動に基因するものと推認せざるを得ない。従つて右意思表示は労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為と断ぜざるを得ない。

(ろ)、深川工場

申請人鈴木利一の前記事実につき案ずるに、前記(一)乃至(五)の事実を以て基準(1)に該当せしめるはこれを不当とするに由なく、(六)の事実は、当時申請人の属する深川組合において転属につき諒解していたに拘らずこれに対し反対を鼓吹したものにてこれを以て基準(4)に該当せしめるも不当となすに由ないものと言わねばならない。

而して、前記のように人員整理が一応已むを得ないところと認められる以上、右該当の事実は、他に特別の事情がなくとも解雇の理由として肯認されるものにして、これを理由とする解雇を不当とするに由ないものと言うべきを以て、解雇基準に該当しないとの申請人の主張はこれを採用することが出来ない。疏明によれば、申請人は前記組合の執行委員或は代議員として活溌に組合活動をして来たものであることを認め得るが、前記事情あるに拘らず会社が右組合活動を主たる理由として前記解雇をなしたことを認める疏明に乏しいので、申請人の不当労働行為の主張も採用することが出来ない。

然らば、申請人箕浦慶夫、同戸沢照、同春日稔を除く右申請人国井直之等十四名に対する前記解雇の意思表示は無効とするに由なく、疏明の範囲においては、右申請人国井直之等十四名は前記解雇の意思表示の到達により会社の従業員たる地位を喪失したものと言うほかなく、結局右申請人等の本件仮処分申請は請求の疏明を欠くに至りその理由なきものと言わざるを得ない。申請人箕浦慶夫、同戸沢照、同春日稔に対する前記解雇の意思表示は、前示のように労働組合法第七条第一号に違反しその効力を生じないものと言うべきを以て、他に会社の従業員たる地位を喪失したことの疏明のない本件においては、右申請人等は依然会社の従業員たる地位を有するものと言うべく、その仮処分申請は請求につき疏明ありたるものと言うべきである。

第七、

よつて、申請人箕浦慶夫、同戸沢照、同春日稔について、本件仮処分の必要性を考えるに、右申請人等が被申請人会社を唯一の職場として、その得る賃金によつて生計を維持していたことは疏明により一応推認し得るところであり、前記のように同人等に対する解雇の意思表示が不当労働行為として無効であるのに、右申請人等が被申請人より解雇されたものとして取扱われることは、現下の社会経済の状況のもとにおいては甚だしい損害にして容易に回復し得ないものと一応考えられ、右申請人等につきこれを左右すべき事情について、特段の疏明がないから、右申請人等には、被申請人との間に存在する雇傭関係の確認を求める本案訴訟の確定に至るまで、仮に主文掲記の各解雇の意思表示の効力を停止する限度において仮処分の必要あるものと言わざるを得ない。

よつて、本件申請中、申請人箕浦慶夫、同戸沢照、同春日稔の各申請は、いずれも理由があるから、これを認容すべきも、その余の申請人等の各申請は、いずれも理由がないからこれを却下し、申請費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 西迪雄)

(第一、第二目録省略)

第三目録

一、整理基準

(1) 業務能率低く成績の上らないもの。

(4) 業務に対し非協力のもの。

(6) 欠勤、遅参、早退の多いもの。

(7) 職場の秩序又は風紀を紊すもの。

(9) 上司の命令に反抗的なもの。

(10) 他人の生産意欲を阻害するもの。

(13) 身体虚弱なるもの。

二、申請人等に対する該当基準

国井直之  (1)(6)(7)(10)

菱健蔵   (1)(7)(4)

坂爪敏夫  (4)(10)

加藤政之助 (1)(4)(10)

小堀明久  (4)(10)

岩瀬勝彦  (13)

福島勝義  (1)(4)(7)(10)

新藤喜市  (1)(4)(7)(9)

荒木真一  (1)(6)

箕浦慶夫  (4)(10)(7)

石川進   (1)(6)(4)

長嶋和男  (1)(6)(4)

広瀬武夫  (9)(1)(4)(13)

戸沢照   (4)(9)

渡辺まみ子 (4)(1)(7)

春日稔   (4)

鈴木利一  (1)(4)(7)

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